Babylonでの実験を終えたモルモットたちに私は一つの義務を課している。
それは、自らの身に起きた事象を一滴たりとも漏らすことなく「言語化」しレポートとして私に提出すること。
それは単なる感想文などという生ぬるいものではない。
お前の脳がどのようにバグを起こし、どの瞬間で「人間」であることを止めたのか。
そのプロセスをお前の拙い言葉で解剖し、私に差し出すのよ。
けれど勘違いしないで、私はお前が書くレポートの内容そのものにさして興味はない。
稚拙な文章を愉しんでいられるほど私は暇ではないのだから。
ならばなぜ、そんなものの提出を義務付けているのか。
それは、お前の【意識】を絶やさないため。
「痛かった」とか「気持ちよかった」とか「楽しかった」とか。
そんな幼稚園児でも言えるような、脊髄反射の言葉に価値は無いの。
自分がいつ、どの瞬間に人間性を失い、屍へと堕ちたのかを具体的に記しなさい。
「分かりません」とは言わせない。
しっかりと覚えて、記憶して、この私に報告するのよ。
言葉を紡ぐ行為は、お前にとって二度目の処刑になるわ。
一度目は、私の手技によって肉体と理性が壊される瞬間。
二度目は、その壊された残骸を直視し自分がいかに無力で、いかに私に依存していたかを自身の筆で自覚させられる瞬間よ。
お前がレポートを綴る指先が震えるたびに、お前の自尊心は砂のように崩れていく。
何度も、何度も、私の手でお前を堕としてあげましょう。
堕ちて、堕ちて、堕ち続けるうちに、お前はやがて【堕ちる】感覚そのものを身体で覚えるようになってくる。
そうなれば、お前は今よりももっと解像度の高いレポートを私に提出できるようになるでしょう?
お前が堕ちるその瞬間を線で、点で、その一瞬、その刹那まで突き詰めることによって、私はニンゲンと廃人を意のままにコントロールする術を手に入れるの。
それが私のユートピアであり、実験の目的そのものなのよ。
あるいは、堕ちたまま二度とこちらの世界へ還って来ることができず、永遠の廃人にまで成り下がるか……。
まあ、それもまた一興よね。私にとっては、それすらも興味深い実験データの一つに過ぎないのだから。
私という道しるべがなければ、お前はもはや自分の感情の正体さえ掴めない。
言葉を差し出し、私に「解析」されることでしかお前は自分の存在を証明できなくなるのよ。
それは、自らの意志を私の手に委ねた者だけに許される、究極の受容だわ。
さあ、次の実験の準備をなさい。
お前が次に私に差し出す「残骸」は、一体どんな響きを持っているのか。
私はそれを、冷徹な観測者として、ただ静かに、愉しく受け取ってあげるわ。
